『星の王子様』私なりの送別品

本の話

人間生きていれば、出会いもあれば別れもある。

会社でいえば、入社してきてくれる者がいれば、退職していく者が必ずいるものだ。

辞めていく理由がなんであれ、去っていく者が同じ部署、同じチームであれば尚更、考えるところは多い。

そして、これまで何人もの同僚を見送ってきた私だが、その中でも去っていく前に少しでも私の経験や想いを伝えたいと思うような同様もいた。

送別品、餞別品の定番といえば、ビジネスマンであればネクタイ?ハンカチ?カードケース?それとも花束?

社畜パパには、そういう人に最後に餞別品・送別品として渡すようにしているモノがある。

それが 名著『星の王子様』 だ。

『星の王子様』 サン=ティグジュペリ 著
新潮文庫 2006年

ご存知、サン=ティグジュペリの書いた不朽の名作。

渡された方は…。一方的で困っているのかもしれないが。

今日はこの『星の王子様』と私の関係についてお話していこうと思う。
しかし、これはあくまで個人的体験であり、一つの事例として紹介することにしよう。

星の王子様と私

私が『星の王子様』と出会ったのは、社会人3年目だったか4年目だったか。
当時の私は、ある程度、仕事もこなせるようになり、これくらいやればこれくらいの結果が出るよね、なんていうような『こなせてる感』『小慣れ感』を持ち始めていた、いわゆる少し仕事を舐めていた節があったと思う。

しかし、当然世の中ってものはそんなに甘くない。そういう時に限ってデカいミスをやらかして、気付かされるのだ。

『仕事舐めんなよ』って

社会人として、技術者として挫折感と無力感にさいなまれ、どん底に落ち込んでいる私に、『星の王子様』でも読めと手渡してくれた、変わった先輩がいたのだ。

当時渡された『星の王子様』

その時は、童話の中の一つくらいでしか思っていなかったし、なぜ先輩が落ち込んでいる自分に『星の王子様』を読めと言ったのか、さっぱり分からなかった。

もちろんサッと流して読んではみたものの、先輩の本意までは汲み取ることができなかった。

その半年後、その先輩は会社を辞めた。辞める直前、先輩に聞いてみたのだ、なぜあの時、『星の王子様』だったのか?

先輩は、バカヤロウ!分かってなかったのか?!と言わんばかりに、アツく解説してくれたのだ。

大切なことは目には見えない

星の王子様は、小さな星で一本のバラと暮らしていた。王子様は、そのバラをとても大切に育てていたが、そのバラはとてもプライドが高く、ついに二人は喧嘩をして、王子様はバラをおいて他の星に旅立つことを決心したのだった。

そして、地球にやってきた王子様は、バラ園にバラの花が何千本も咲いていることを知ってショックを受けたのだった。王子様は自分の星のバラはこの世に一つしかないバラだと思っていたから。

そんな折、王子様は一匹のキツネに出会う。キツネは王子様にとても大切なことを教えてくれるのだった。相手のために費やした時間が、それが良いことであっても悪いことであったとしても、相手を自分にとっての特別にする。

それを聞いた王子様は自分の星にいたバラの花は、自分にとって一番大切なものだったということに気付くのだった。

さらに、キツネは節々に大切なことを教えてくれてい。

『言葉はいつも誤解のもとなんだ』

『大切なことは目には見えない、心で見るんだ』

言葉のような表面的なものにとらわれずに、行動そのものがその人の奥にある本性や想いを表すこと。

そして、お互いに費やしてきた時間こそが特別であり、目に見えるものでなく心で感じとるしかないということ。

当時の自分が、いかに表面的に仕事をこなして、その結果ミスをした。

言葉ではなく相手(顧客)のためにどれだけ行動してきたか。それ自体が特別で、顧客にとって自分が特別な存在になるんだ。

ということを先輩は伝えたかったのだ。

『落ち込んでる場合じゃないぞ、相手のために行動すればきっと想いは伝わり返ってくるぞ』

随分まわりくどい。

しかし、その先輩の一連の行動によって、私は色々なことに気付かされ、そこから仕事に対するモチベーション、考え方がガラッと変わった。

(そのせいで社畜をこじらせている感は意否めないが…)

だからその先輩は今でも私にとって特別な存在であり、あの時貰った『星の王子様』は私にとっての特別になっている。

旅立っていく同僚へ、そんな想いを一方的にぶつけている訳だ。

『星の王子様』にはその他にも色々な教えや解釈があり、今回だけでは伝え切れないが、今回のフォーカスした内容はこんなところである。

去っていく君へ

そして、先月また一人旅立っていった。

御多分に洩れず、自分勝手な一連の儀式が滞りなく遂行されたわけだ。

君がここで経験してきたこと、過ごしてきた時間は君にとって特別で、私にとっても特別なのだよ。
今後、辛いことにぶつかった時に少し立ち止まって思い出して欲しい。

私の周りにも、意外と『星の王子様』を読んだことのない人がたくさんいる。

知らないもの知ることで、私のような心を揺さぶられるキッカケになる人が一人でもいると嬉しく思う。

『星の王子様』 サン=ティグジュペリ 著
新潮文庫 2006年

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